つい子供を責めてしまう彼女の話

「だから言ったじゃない!」

「なんでそんなことしたの?」

「はじめから〜しておけば良かったのにどうしてしなかったの?」

彼女には、いつも相手を責めるような言い方をする癖があった。

「言い方に気をつけなければ」

と自覚をしたが、

気がつくとそういう言い方になっているらしい。

悪気はない。

相手を責めるつもりもない。

気がつくと、相手からのクレームをもらってしまう。

気がつくと、自分は悪役になっている。

彼女はあまり覚えていないが、

彼女自身が幼い頃、周りの大人たちにそういう言い方をされて育った。

間違ってはいけない。

正しくいなければいけない。

それが当たり前の世界

それの何が悪いっていうの?

子供は、周りからかけられた言葉遣いを覚える

子供は、大人からされていた声掛けを、自分にかけるようになる

その声掛けを、他者にも使うようになる

こうやって、コミュニケーションの方法は

染み付いていく

連鎖していく

どこかで誰かが気がついて直さなければ、

この連鎖は止められない。

「どうしてそんなことをしたんだ!」

「だからあれほど言ったじゃないか!」

「お前は本当に出来が悪い!」

「誰に似たんだ!」

「お前は橋の下で拾ってきたから出来が悪いんだ」

「なぜそんなにトロいんだ。早くしろ」

彼女はそう言われて育った。

彼女は、自分でも気がつかないうちに

いつもいつもその言葉を自分にかけ続けている。

「どうして私はこんなにできないんだろう」

「また失敗しちゃった」

「取り返しがつかない」

「どうしよう、どうしよう」

無意識のうちに、彼女は何十年も

その言葉を自分にかけ続けている。

大人になって結婚した彼女は

旦那にも同じ話し方をする

「前にも言ったじゃない!」

「どうしてくれるの?」

「なんで何度行ってもわからないの?」

「あなたが悪いのよ!」

彼女は、幼い娘にも同じように話す

「だから言ったじゃない!」

「あんたが言ったのよ?」

夫も、娘も、

“その出来事”だけ見れば、間違っているのかもしれない

彼女は正しい

彼女が言った通りにしないから、旦那も子供も

失敗する

彼女に迷惑をかける

何がいけないというのだ?

彼女のその言葉の裏側には

確かに愛情があった。

夫には偏った食事をしないで欲しい。

身体を大切にして欲しい。

我を通す癖をやめてほしい。本当はいい人なのに敵ばかり作らないで欲しい。

娘には、失敗をしてほしくない。

私の言ったようにやれば失敗しない

悲しんだり、後悔しないで済む

形がどうあれ、それは確かに彼女の家族愛だった。

大人になった彼女の娘は、とても優秀に育った。

どこへ連れて行っても恥ずかしくない。

しかしその裏では

失敗しないよう常に自分を見張るストイックさ

他人が機嫌を損ねないように気を張って立ち回る

娘にはそんな癖が育っていた。

これは性格というよりも、身につけてきた立ち回り方

娘はやがて、精神疾患になった。

繰り返す精神疾患の原因を突き止めていくと、

娘は幼少の頃からの彼女の感情的な責める言葉に

怯えていたのだとわかった。

娘は、何度も

「私が悪いのはわかったけど、その言い方をやめて欲しい」

と伝えていたらしい。

全く覚えていない。

彼女はとてもショックを受けた。

初めは受け入れられなかった。

そんなはずがないと思った。

自分がそんな言い方をしているということにすら気がついていなかった。

娘をとても愛していて、

優秀に育ったから、自分の子育ては成功したのだと信じて疑わなかった。

彼女は、何年もかけて

自分の無意識の娘に対する立ち振る舞いと

その娘への影響を

少しずつ腑に落としていく。

それでも

「あんたが言ったんだよ!」

「だから〜って言ったのにどうしてしなかったの?」

という言い方は、

つい口から出てしまう。

やめなければ

と思ったところで

すぐにやめられない。

罪悪感に苛まれる。

「私は母親失格だ」

「子供など産んではいけない親だったのだ」

そうではない。

彼女は決して母親失格でも、

子供を産んではいけない人でもない。

ただ、

当時の彼女は子供の言葉を受け取れなかったのだ。

それは、彼女の中の

「芽」の存在に気がついていなかったから。

彼女自身、

子供の頃の大人たちの言葉に傷ついていた

しかしその感情にきちんと向き合ったことがなかった。

自分が悪いと思っていたから。

「自分が悪いから直さなきゃ」

「自分が出来が悪いから頑張らなきゃ」

彼女はいつも自分を否定して

それを直すために頑張っていた。

自分が悪くて

直さなければいけなくて

それが正しいと思っていた

それを見て大人が怒鳴るのは当たり前だと思っていた

そんな自分は責められるべきだと思っていた

彼女が自分の中のその「当たり前」に光を当てるまでは、

「言い方を気をつけよう」としても

責める言葉は

ついうっかり、口から出てしまう

そういうものなのだ。

melle
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